金利をゼロまで引き下げることができる」今までの恐慌に比べて今回の恐慌が酷い状況にあるのはあらゆる人が理解できるはずだ。
現在、多くの金融アナリストが、K主義者たちが夢想するゼロ金利を主張し、それが真面目な政策提言であるかのようにその必要性を主張している。
このいい加減な提案によって、バブル景気による資源の間違った配分が永続し、悪化するのであり、未来の経済危機をより深刻化させる。
しかし、ゼロ金利を求める主張が現在のアメリカの経済政策の中心になっているので、連邦準備制度が二○○八年一二月中旬に金利をゼロに近づけたが、誰も驚かなかった。
FFレートの目標は○%から○・ニ五%に設定された。
物価や賃金を維持しようという試みは行なわれない。
市場がうまく機能していたら資源や労働力は、健全な経済が必要とする産業部門に自然と振り分けられるはずだ。
しかし、実際には、物価と賃金は人為的に固定されており、自然な再配分はうまくいかず、景気回復は遅くなる。
K主義者たちの主張する「呼び水的経済政策」もまた、経済を悪化させる。
呼び水的経済政策とは、政府が国債や公債を発行してお金を借りて、「公共事業」に支出することである。
これもまた現代の迷信である、「経済を回復させるにはとにかく支出せよ」という考えに基づいて行なわれる。
この迷信が、民主党の議員たちが実行を求める「景気刺激策」の基礎となっている。
共和党の主張する景気刺激策は、何もないところから通貨を新たに発行し、人々に小切手(商品券)の形で配るという戦略を採っている。
そんなことをしても景気は良くならない。
「資源を特定の部門に回せば、経済全体が上向き、私たちは豊かになれる」ということらしい。
経済史家のR・Hはこうした景気刺激策について、「プールの底から水を取り、それをプールに流し込んで、水位が上がるのを期待するようなものだ」と述べている。
人々の常識とは異なり、大恐慌時代、労働者の賃金は高かった。
しかし、それが問題だったのだ。
賃金は当時、政府が介入して強制的に高く固定されていた。
だが、それによって雇用は減り、失業者が増大したのだ。
政府が原因となるバブル景気とその崩壊のサイクル市場がきちんと機能していれば、様々な部門において、資本と労働力の配分は適正化される。
富を浪費している無駄な投資を現金化し、資源が健全に成長する部門に回るようになる。
追加的な公共事業支出など経済には不要だ。
それには三つの理由がある。
公共事業支出を行なうために人々に税金を課すので、民間に回る資源が減少する。
公共事業支出によって、本来なら倒産し、清算されるべき企業にお金が回ってしまう。
公共事業支出のための資金を得るために、政府は国債や公債を発行する。
政府が借入を増やすことで、人為的に金利が上げられる。
それによって銀行からの借入がより難しくなり、消費者の需要に実際に対応する企業の資金確保が難しくなる。
これらに加えて、公共事業は、バブル景気崩壊後の脆弱な経済に必要ではないものだ。
バブル崩壊後の時期は、消費者需要が高い製品の生産に資源を回し、無駄はできるだけ省かねばならない時期だ。
しかし政府は、何をどれくらい、どの原材料を使って、どのような方法で製造するかについて何も知識がない。
民間企業は損益計算を行ない、自分たちの製品やサービスが消費者のニーズにどれくらい適応しているかをいつも調べている。
企業が利益を上げれば、それは、市場が企業の決定を受け入れたということになる。
企業は資源や労働力を効率的に投入し、製品を生産する。
それが消費者に評価される。
その製品の生産に投入された資源や労働力の総計よりも価値が高くなるので、利益が生まれる。
企業が損失を出した場合、その企業は、経済において消費者のためになるはずだった資源を無駄遣いしたことになる。
政府にはそのような評価メカニズムは存在しない。
それは、彼らが行なう施策に必要な資源を民間部門のような自発的な方法ではなく、市民からの強制的な税の徴収という方法で得ているからだ。
そして、政府の作ったものを買う、買わないを消費者は選択できない。
市場における生産の目的とは、消費者需要を満たすことである。
政治的な意図をもって窓意的な資源配分をすると、経済の長期的な成長は妨げられてしまう。
従って、経済危機によって人々の生活水準が下がっている時期に公共事業を行なうのは資源の無駄遣いである。
この時期は、今ある資源を効率よく使わねばならない。
国家はまた、失敗した事業を助けるために緊急貸出を増やしたいという誘惑と闘わねばならない。
その企業が健全ならば、資金は民間部門から得られる。
健全でなければその企業は倒産し、資源はより健全な他の企業に回ることになる。
だが、消費者の需要に応えている企業から資源を奪い、そうではない企業に回すことで、経済は弱くなり、景気回復は遅くなる一方だ。
サーカスは町を離れないなどと考えるレストランオーナーに補助金を出したり、資源を回したりすることで、経済は悪化するのである。
今回の経済危機が発生する前、ITバブルが発生した。
これは、オーストリア学派の景気循環理論が説明できる、最新の出来事である。
一九九五年八月九日はネットスケープ社にとって素晴らしい日となった。
ネットスケープ社は、社名と同じインターネット・ブラウザを創設し、人気を誇った。
その日、ネットスケープ社は株式公開を行なった。
株式を一般の投資家も買えるようにしたのだ。
その日、二八ドルで取引が開始され、終値は約三倍の七五ドルまで上昇した。
ネットスケープ社はそれまでただの一ドルの利益も上げていなかったが、共同設立者のジム・クラークは株式の二○%を保有し、その保有株式の評価額は六億六三○○万ドル(約六六三億円)にまでなった。
ネットスケープ社の株式公開は、ITバブルの始まりを意味した。
それから五年間インターネット関連会社の株価は上昇するが、二○○○年に急落してしまうのだ。
その狂乱の時期、アラン・グリーンスパンは、「〃新しい経済″が生まれ、以前であれば制約であったものが制約ではなくなった。
この好景気は崩壊することはない」と主張した。
しかし現実には、ITバブルははじけた。
オーストリア学派の景気循環理論が予測した通りとなったのだ。
バブルが崩壊するための、すべての要素が揃っていた。
連邦準備制度による通貨供給量の拡大に伴う低金利がまず挙げられる。
「マネー・ゼロ・マチュリティ」という指標を使って調べてみると、一九九五年六月からニ○○○年三月までの間に、通貨供給量は五ニ%も増加した。
一方で、実質GDPの増加率は同時期、4%であった。
同時期、インターネット関連企業はプログラマー、シリコン・バレーの用地、インターネットのドメインなどの補完的資本財を必要としていた。
だがそれらがかなり不足し、価格が上昇した。
政府の統計指標では物価全体の上昇は低い水準か、中水準にとどまっていたが、それらの指標にはインターネット関連企業の必要とする資本財の価格は含まれていなかった。
政府統計に重要な価格が反映されていなかったのである。
インターネット関連の資本財の価格が急上昇したことによって、ITバブルは崩壊したのである。
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